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塔六月号 月集、作品1

06 /22 2017


真顔にて世をば憂ふるごとき歌真顔のわれは付箋貼るのみ /真中朋久
真顔で憂うとはどんなことなんだろう。すごく真剣、でもそれがかえってどことなくずれているような印象を受ける。その歌に真顔で付箋をする作者が面白い。作者が付箋をしたのは憂い方が上手かったからではなくて、真顔で憂い、ちょっとずれた感じに仕上がった点に魅かれたからではないかと思う。

耳つきのねこのくつした穿きながら嫁ぐ不安を君は語りぬ /斎藤雅文
耳つきのねこのくつした。嫁ぐことへの小さな価値観の違いなどが思い浮かび、また足を温めることからぬくもりも思い浮かぶ。漠然とした不安のようなものを、ねこの靴下を穿くという動作の描写でうまく伝えていると思う。

あがれよとアパートのドア開けた手で友は一枚日めくりをちぎる /清水良郎
ドアを開けた手で日めくりをちぎる、がとてもいい。気安いものばかりが歌われている。あがれよ、と言える間柄。アパートのドアも気軽な感じだし、日めくりもそう。友である作者が来て日めくりをちぎることに特に意味はないと思う。玄関の傍でまだめくれてなかったからめくっただけだろう。さばさばしていい歌。

弟の死を知らさむと異母兄へ書きし手紙の抽出しにあり /小林幸子

嫌ひな人を嫌ひだと思はずに好きだとおもふが時どき嫌ふ /岩野伸子

セールスの人は玄関を見回して一輪ざしの椿ほめたり /小石薫

乳がんの痛み知るゆえ遺族らが胸元避けて入れる花々 /貞包雅文

乗り過ごすおそれも淡き甘美にて電車の椅子はあたたかきかな /相原かろ

がうがうと唸れる山のふところへ入つてゆけば静かなる洞 /小澤婦貴子

亡き人の声きこえくる昼の月「寒い」を「淋しい」ことと気づけり /中村佳世

大小の画面ならべる電気店十人の安倍と向かいあうなり /向山文昭

柔道着の丈なおしてと孫来たり顔の巾ほど障子をあけて /中島扶美恵

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ukaji akiko

塔短歌会。福岡市在住。赤煉瓦歌会に参加しています。