塔5月号 作品2その3 、若葉集

05 /31 2017
寝坊した朝の信号 救急車が静かに青を待っていて 晴れ /山川仁帆
寝坊してしまい、出勤の時間がちょっと遅れただけで普段とは違う風景を見ることになった。遅刻した作者、青信号を待っている救急車。一字あけで三つに分かれた一首。投げ出されたような「晴れ」の結句。不思議な浮遊感があります。

セザンヌの絵をなくしたり模写だけを褒められし美術室のどこかに /吉田典

動かない雀を土に埋めてやる粗紙広げ陶器のように /菊井直子

逆光に海の輝く蜜柑山色づく蜜柑を一つ捥ぎたり /宇都宮萬里

吾が黒を着れば黒を着ているようなナカジマくんがようやく話す /清水かおる

思い出は一つも無きにあるがごと足止めつつ行く雪像通り /中村英俊

曇天の外に出でたれば吐く息の白きを黒き幹に確かむ /宗形光

やる意味の見つからないまま終わらしてめったに食べないお菓子を食べる /永田櫂

あの人はどうなったかとふと思う夕陽を受けて影長く立つ /夏川ゆう

若葉集

われの撮るものは退屈と過ぎてゆく講師の背中にシャッターを切る /川田果弧

ランドセル背負ふをさなのほそき列冬田の畦をゆるゆる進む /岡部かずみ

晩柑をともしびとして食卓に船をいざなふごとく待ちをり /有櫛由之

トラックがガード下へともぐる度 会話の途切れる学生二人 /中西寒天

先生の顔色を見る我がいた玉ねぎ刻みながら気づいた /和田かな子

「また女」言われし末っ子我なれど父と旅せし子は我ひとり /水岩瞳

塔5月号 作品2 その2

05 /31 2017
夕暮れの公衆電話はひとり住む田舎の母の姿と思う /斉藤わこ
夕暮れて公衆電話につく明かりはそこだけしか照らさない。部屋の明かりの下にひとり過ごす母親の姿と重なるのだろう。携帯電話と違いその場所から動くこともない公衆電話のぽつんとした寂しさ。

雪の墓地わが長靴の足あとを踏みつつ帰る母の命日 /井木範子

名の上の故の字さびしむ私のときは知らずに過ごしてほしい /高松紗都子

百年後の未来と一分前の過去それでも未来のほうが近い /太田愛葉

あたたかい布団が好きな私には一人旅など似合わぬだろう /北山順子

なぐさめの水音と聞くせせらぎの傍らにゐて愚痴こぼれたり /進藤サダ子

AIはこれはできないそうだろうノドを鳴らしてコークを飲むの /中村寛之

晴れの日は椅子橇に乗りその影をじっと見ておりおさなごなれば /吉岡みれい

樹にもどる声を発して揺れる家からだかたまり動けずにおり /谷本邦子

出張の朝はいつもと反対の車両に乗りて朝焼けを見る /中村真一郎

錆ついて朱字が抜けた看板の「に注意」だけが今日も輝く /丘村奈央子

白菜を被える雪を落としゆく頭上に淡き月浮く畑に /篠原史

汚れたる春の来てをりバス停の混みて靴元斑れたる雪 /藤原明朗

「あなた今季節にすれば盛夏だ」と母の言葉を察したくなし /宮本華

連絡のない子に電話してみようコーヒーうまい日曜の朝 /宮本華

海原の一点を見る我の目を空渡りゆくカモメが奪ふ /髙野岬

塔5月号 作品2その1 ちょこっと評

05 /31 2017
他者の飲むコーヒーの香は魅力的ふわり漂い静かに消える /杉山太郎
きみでもなく人でもなく、他者というところが面白い。他者が飲むコーヒーというのは自分とは関係がない他者の世界のもの。作者は香りとともに他者の世界に一瞬心を寄せたように思える。そんな面白さのあるシーン。香りが消えると同時に他者の存在も静かに消えて、自分だけがそこに在る感じです。コーヒーがとても美味しそう。

半夏生 左腕に陽が差したとき傷の部分が一番白い /田村穂隆
初句の、ぽんと一字あけで置かれた半夏生がとてもいい。
そこからイメージされる季節の眩しさや半夏生の白さ。それが二句目以下の歌へうまく繋がっています。ふだんは見えにくい傷が陽にさらされると浮きあがる。左腕というのも右腕よりは弱いイメージがあり、そこにも白さや痛みが付随しているように思えます。


夕暮れを待ちて手にする花ばさみ元荒川の飛び石わたる /久川康子
花ばさみ、元荒川、飛び石。なかなか楽し気な語が並んでます。夕暮れを待って花ばさみを持つ、ということで、なにやら物語が始まるような歌。夕暮れを待っていた、その勢いが普通に歩いていくのではなく「飛び石をわたる」にぴったり。

塔5月号 作品2 その1

05 /28 2017
呼び方を変える過程で消えてゆくものはなんだろう呼ぶ声がする /紫野 春
結句の「呼ぶ声がする」の実景がとてもよいなと思いました。
過程という言葉から、呼ぶもの呼ばれるものの間に流れている時間の経過が浮かびあがります。歌の中では呼ばれている作者ですが、作者が呼ぶ側の時もあるでしょう。その呼び方はより親し気に変わっていくと思いますが、作者はそこに消えてゆくものをみています。


よく笑う男女が立てる横須賀線触れそうにある右手左手 /杉山太郎

他者の飲むコーヒーの香は魅力的ふわり漂い静かに消える /杉山太郎

出張の有りて果たせる墓参なり閼伽に溜れる落葉を浚う /安永明
 
手枕し炬燵の中で雨を見る雨が止むまでパジャマでいよう /田巻幸生

肩落すおれつてこんなんだつたつけもう慣れてゐて風呂に水はる /西浦優

共感はしまっておいてくれないか姉が泣いたら妹も泣く /井上雅史
 
赤い実のゆゑに活けられし南天が捨てられてゐていよいよ赤い /高橋ひろ子

彼が読んでいる本を私も好きだけど言わない何も壊せないから /森永理恵

飛びこんでしまいたさうに灯台は崖に立ちをり波つよき日に /木村珊瑚

半夏生 左腕に陽が差したとき傷の部分が一番白い /田村穂隆

三代目になりて床屋の看板が漢字に戻り春はうららに /富田小夜子

おふとんを這いでて夕暮れコンビニの募金箱から繋がる世界 /萩原璋子

夕暮れを待ちて手にする花ばさみ元荒川の飛び石わたる /久川康子

大雪に道幅狭き道駆るにゆづる頃合ひみて擦れ違ふ /矢野正二郎

景色

ブログ
05 /28 2017

おとつい金曜日の窓からの景色。土日は工事はないので今日もこのまま。写真むかって右が西。今の季節、夕日はこの写真でいうとずっと右の見えない位置に落ちるけど冬は写真の山の真ん中あたりに落ちる。

塔5月号 作品1の追記

05 /24 2017
塔を読んでいると、似ている歌が登場することもあります。
同じ号に登場する不思議、歌どうしに縁などがあるのかもしれません。そう思うと楽しい。
今月5月号の作品1には次のような歌がありました。

洗濯機まはせば国民年金と聞こゆ故障のきざしなるべし /中山博史
ジングルベルの鈴なるごとき音の聞こえ三日後換気扇は壊れぬ /千名民時


どちらの歌も家電の不具合のその音を題材にしています。

中山さんの歌は、読みかたによっては自分の耳の不調を詠んでいるともとれるところが面白いです。
千名さんの歌は、ジングルベルという幸せの象徴のような鈴の音が、換気扇の壊れをもたらしてしまうところが歌になっています。

次のような歌もありました。

歌を詠むときも話をするときも言ひ過ぎるなかれ 藪椿落つ /大木恵理子
いらん事は言はんでおかうといふことの身にしみて人はいつしか老いる/西之原一貴


大木さんの歌は、歌を詠むという自分自身に向かう対話と、話をするという他者との対話の、二つについて歌われています。
西之原さんの歌は、いらんことを言ってしまうのが若さ、自分の体験からいろいろと身にしみて身にしみて、といったところから、言わないでおこう、となる、そういう学びを老いと捉えているのかな、と思いました。

四首ともいいなと思ってしるしをつけていた歌です。
以上作品1の追記でした。

塔5月号 月集、作品1

05 /24 2017
子の入学まではまだ一年もある朝の机上の黄砂を指に確かむ /花山周子
海を挟んだ大陸から運ばれてくる黄砂。遠いような近いような場所が入学までの一年という時間と重なります。学校という社会に入れば嬉しいことばかりではないことが、砂という小さな痛さかと思います。

親戚の今のやうすを片端から母と語りぬテレビは点けたまま /小林信也

冬の陽を受けし団地を遠くよりふたりで見ており夢かもしれず /沢田麻佐子

厄払いの予約が入りどんどこと和尚は太鼓の練習をする /片山楓子

上弦の月を離れゆく金星の光の増して会えぬひとたち /佐藤浩子

暮れかたの堤に凧揚げする親子あやつり人形のシルエットなす /山地あい子

断わりしセールスマンが行く姿隣り部落の雪道に見る /向山文昭

詩にあらば言ひかへることもあるだらうだが戦闘は戦闘だよな /白石瑞紀

寒空は一色の青 喪にこもる友の住む街を快速に過ぐ /立川目陽子

怒鳴ったあと(そこには何もないのだが)ずっとスマホを見ている時間 /上澄眠

理不尽をあらゆる言葉に言いかえて日替わり定食Aをたいらぐ /永田聖子

「建築という対話」光嶋裕介トークイベント

ブログ
05 /23 2017
建築という対話

先週の金曜日に、「空間との対話について~建築家として働くこと~」というトークイベントに行ってきました。

ほんとに面白かった。お話が。本はまだ読んでいる途中なのでトークのことを忘れないうちに。

場所は天神の真ん中の小さなブックカフェ。
スクリーンがかかる会場に、30人くらいの人が丸椅子に座り、私の両隣も前も後ろも、建築学科と思われる学生さんでした。男性のほうが少し多かったです。後方を見やれば、僕たちはすでに建築家としてやっています(ピリッ!)、という風なかたも何人か聴いていらっしゃいました。

光嶋さんがこの本(主に中高生向け)を書いたきっかけは

「建築家の仕事を知ってほしい。衣食住のうち、住に対してはなんとなく世間との境界線がありそうなので、そこをなくしたい」というシンプルな思いがあったからだそうです。

そのあとに続くトークは、

オリジナリティとは何か、時間軸のこと、年を経ていくものへのリスペクトのこと、空間や風景と身体の対話、雑多なものの大事さ、他者への想像力、続けるということについて、などなど。
これらがすべて、光嶋さんの体験談とともに語られるので聴き入ってしまい、あっという間に時間が過ぎていきました。

トーク中に、光嶋さんが「前の席から回します。」と言って、学生時代に外国の建築を見て周った時に描いた、A4サイズの、とにかく小さなスケッチブックが回ってきたのですが、
「えー。そんな大事なものを!」とまず驚いて、そして、隣から回ってきたスケッチブックを開いてまた驚きました。
・・・建築家ってこんなに絵が描けないとなれないの・・?・・・。
とても素敵な絵でした。
スケッチとは別に、三次元を二次元にした、ドローイングのスライド、これも不思議な世界。

帰りには建物の外観や、入ったお店の内装を今まで知らなかった視点から眺めることができて、楽しい気持ちになりました。

6月7日に池袋ジュンク堂でもトークイベントがあるようです。お時間ある人はぜひどうぞ。ドリンク付きで1,000円です。

赤煉瓦歌会 赤煉瓦文化館

05 /21 2017
今日は赤煉瓦歌会でした。このようななんとも素敵なところで歌会をしています。外観と中を簡単にご紹介。
設計者は東京駅などを設計した辰野金吾工学博士、片岡安工学士。昭和44年に明治洋風建築の代表作として国の重要文化財に指定されました。(手元にしおりあり)

場所は天神。すぐそこは中洲。やや海寄りにあります。

歌会が終わり、扉を開けて石段を降りるとき、信号待ちの車のドライバーが「おや?ここで何してんのかな?」みたいな顔でハンドル握っています。これはほんと。
赤煉瓦文化館

朝の光がまぶしいな~。洗濯をあと一回してきたかったなー。どんな評がでるかな~、と思いながら上る階段。歌会の部屋は二階です。
赤煉瓦窓

今日の題は「鏡」。 下の写真は<見えずの鏡>。165センチの私では全く映らない高い位置にあるので、そう名付けてみました。竹馬に乗ってやっと顔がみえるくらいです。誰が見るのでしょうか。  なにか意味はあるのでしょうね。
赤煉瓦鏡

壁がアーチになっています。この部屋のこっち、写真を撮った場所でふだん歌会をしています。
こうしてみるとあらためて素敵な部屋で、選者派遣の時に赤煉瓦のメンバーがコートや荷物をぽんぽんこの椅子やテーブルに置くのはいかんっちゃない?と思ってきました。
赤煉瓦アーチ壁
という感じの、とても素敵なところです。機会があればぜひお越しください。

がんばれミエーズ 三重歌会             投手と打者の二人きり

05 /18 2017
昔、「がんばれベアーズ」というアメリカのちびっこ少年野球チームのテレビドラマがあっていました。面白くて人気があったように思います。

塔五月号の歌会記の三重歌会記を読みました。参加者は二人。三重歌会はいつも参加者が少なく、二人とか三人です。
秋頃に三重にちょっと行くかもしれないので、そのこともあり、ダウ平均を見るかのように三重歌会を見守っていました。(月に一度の歌会記上で)

この数か月、歌会記に載っていなかったので、もしかして..なくなっ...と他の歌会ながら気になっていたのですが、今月の歌会記を見てほーっとひと安心。
安心どころか二人で何時間も「評」し合うそのことに脱帽です。

今月の三重歌会記には、「幾人かの評者によって自信作を滅多打ちにされることもないが、その代わり作者と読者一対一のせめぎ合いとなる」、と書かれています。

人数が多い歌会は、いろんな評を聞けるという利点。

でも、もしかしたら、評をしにくい歌の時は、真剣に考えながらも上手く評が出来るほかのかたの発言を待つ、頼る、ということを自分はしていないだろうかと考えました。

それは...していない、と思いますが・・・。どうかなあ・・。

なんとか評を言おうと考えているうちに、ほかのかたが発言されたり、のパターンが多いのかもしれません。
でもそれも結局はほかのかたを頼っているのと同じことかもしれないなー、と思いました。

二人の歌会の場合は、歌会記にあるとおり、一対一のせめぎあい。

あと一人いれば...。二人から三人になれば、評はまた全然違ってくると思います。

歌会記の雰囲気はいたって楽しそう。今回は四首づつの提出だったとあります。自信作やちょっとした冒険作などいろいろな歌を提出できそうです。

<がんばれミエーズ>
三重県 14市15町
・エヴァンゲリオンと日本刀展 5月13日~7月20日、伊勢安土桃山文化村
・伊勢神宮、熊野古道、御在所ロープウェイ、丸山田千枚田、
 伊賀流忍者博物館、四日市工場夜景クルーズ(一泊二日セットプランあり)、鳥羽水族館
・松坂牛、赤福、真珠、伊勢型紙、 
・江戸川乱歩、はやみねかおる、松尾芭蕉、佐々木信綱、大辻隆弘、西野カナ、 椎名桔平、瀬古利彦、野口みずき
 



ukaji akiko

塔短歌会。ふだんは赤煉瓦歌会に参加しています。スガシカオ好き。気軽に好きなことを書いてゆこうと思います。

プロフィール欄がなぜか二つになっていて直りません。

Happy go Lucky!