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塔12月号 作品2☆彡その3

01 /16 2019
昨日、外が一日中白いと思っていたらPM2.5が平均基準値の2倍だったとのこと。てっきり細かい霧とこの季節の雲や空気のもやもやだと思っていました。


作品2☆彡その3
飛べさうにアヒルが走る秋の日の嗚呼ふる里の空気はうまし /三木紀幸
上の句にあてはまる言葉を考えて入れなさい、みたいな問題が出来そう。「飛べさうにアヒルが走る秋の日の」、とてもいいと思った。かわいくてのびのびしていて、元気がでます。

椅子のかど触れつつ人を待ちておりいずれの指も木の根に似せて /宗形瞳
待ちながらふと指を見て木の根に似てると思ったのか。木の根というものからは時間もイメージされる。静かに時間が過ぎていく。

君の居ぬこの世に残りて小さ目のキャリーバッグを購入したり /森富子
今までは二人で出かけることが多かったのか。君の居ない世界であるけれどじっとしておかないでその世界を見よう、とする。「小さ目のキャリーバッグ」という控え目ながらの快活さから作者の姿が浮かんできます。

CT画像説明終えて「お元気で」と主治医は言えり術後七年 /中村美優
もう大丈夫、という安心。「お元気で」は、主治医も作者も嬉しく明るく、また一つの関係が終ることもさみしく、この日々を振り返っただろう。

なんだこのつかみきれないそれからを 空だやっぱりひろがっている /篠原廣己
母を亡くしたことが他の歌から分かる。母が亡くなり、今までと何かが違うと思う、けれどそれが何かもよく分からない。「なんだこの」から始まる唐突さ、不安定さは心情が表れているように思います。

幼き日に思いのかえることもなしマドレーヌ半分紅茶に浸す /中村ヨネ子
塔を読んでいると、幼い頃を思い出している歌が多いのでこの歌は珍しいと思った。マドレーヌの色を考えると紅茶に浸してもそう色が変わらないのではないだろうか。くっきりと見えないところが歌とあっているように思う。マドレーヌは紅茶に浸したら美味しいのかな。

ひとさわぎまたおきさうないら草の花のさかりの晩夏をゆけり /福田恭子
何のひとさわぎだろうか。世間でのことか作者の周辺のことか。いらくさのチクチク具合が「ひとさわぎ」を思い起こす。作者は一歩引いたところから冷静。

自分しか知らないことが増えて行く鶏頭の赤が濃くて眩しい /米澤義道
自分の他に知っている人がいなくなる、亡くなっていくということだろう。共有していた事柄を自分だけが引き受ける。「鶏頭の赤が濃くて眩しい」の眩しさからは、遠いような、最後のようなものを感じます。

塔12月号 作品2☆彡その2

01 /15 2019
一日中、空がぼんやりとした白い一日。


作品2その2☆彡

それ程に伸びてない髪切りに行く 捨てたいものは何なのだろう /石丸よしえ
少し伸びただけの髪を切りに行き、ほんとうは他に捨てたいものがあるんじゃないかという問がおぼろげに湧いてくる。もやもやとしたものが漂ってくる。

いちにちに五人と話せと医師の言ふ五人目もとめコンビニにゆく /唐木よし子
五人、ということを守る作者。それにしてもコンビニ? そうやって外に出かけることも大事なのかもしれない。コンビニがこういうコンビニの役割をしているところもおもしろいです。

ライト持ち照らせば昼と変わりなくただに続けり蟻の行列 /谷本邦子
そう考えると蟻ってほんとに小さい!蟻の世界を作者が動かしているようにみえる。

駅なかのすし屋のガラスに貼りついて早くと叫ぶ子らはわれの子 /丸本ふみ
子どもの様子がかわいい。すし屋の前で早くと叫ぶ、それが何処の子でもない「われの子」という結句がいいです。

なぜか怖い 顔さえ知らぬ祖父のいて我の生まれる前に死んでる /王生令子
自分に繋がっていることを意識しつつ、自分が触れ得ないものへの不安。祖父が亡くなっても脈々と血縁だけが続いている怖さというものもあるのかもしれない。上手く感想が言えないけれどこの「なぜか怖い」感覚は分かる気がする。分かるけどこう上手くは詠めない。

縦書きの音楽なんだ僕はただ自転車を漕ぐ真下、真下に /吉岡昌俊
短歌を「縦書きの音楽なんだ」と言い切るところが気持ちいい。自転車はリズム良く自力で漕ぐ乗り物。作者の歌の作り方が歌になっていておもしろいです。

ケトルの中で温められて冷えてゆく時間ありけむ忘れられたまま /永山凌平
どうしてそんなことを思ったのだろう。過去に大事にしていた出来事や時間のことをふと思ったのだろうか。限定された空間と時間の存在。優しくて余韻があります。

うしろから歌集に注ぐ陽を浴びて紙はましろきページに変る /加藤紀
ページに陽が反射して歌が見えなくなる。歌がどこかに飛んでいったような、例えば読みなどから自由になったような、そういうふうな感じがします。作者も一緒に陽を浴びているところがいい。

ひと日暮れひと日暮れつつとある夕べ古希になつたと仏壇に言ふ /北島邦夫
一日一日、過ぎていく。とくに大きな出来事のない日常の線上にある古希。「とある夕べ」がおもしろく、「仏壇に言ふ」が優しい。ご両親への報告なのかもしれない。

西葛西の<葛>の字だけは母親に書いてもらってやたらと細い /瀧川和麿
小学生くらいの子からの手紙だろう。葛の字が書けなくて母親が代筆している。西と西に挟まれて目立ってしまう「西葛西」という地名がいいです。

塔12月号 作品2☆彡その1

01 /14 2019
昨日は今年最初の赤煉瓦歌会でした。体調がいまひとつで、発言がのろ~んとしていて反省です。お昼ご飯のオムライスは美味しかったです。



12月号作品2 その1☆彡

夜勤の子出で行きし後つよくなる雨音をただ夫と聴きをり /清原はるか
作者と夫と二人とも同じ思いに子を心配する。あれこれと思いはあるが言ったところでどうにもならない、と二人が思う。子を思う気持ちと、夫婦間に流れる同じ思いとが伝わってきます。

自主性に委せておけば足りぬかと水飲むたびに夫にも注ぐ /浅野次子 
この夏は熱中症で運ばれる人も多かった。他のことなら自主性に任せてもいいけれど、身体を心配して水だけは注いでしまう。自分で飲んで!と言いたいところだけれど、ついつい、という感じかな。

濡れた目の柴犬を過ぎ向かう駅明日の天気も知らない町の /泉乃明
住んでいるでもなく短く滞在しただけの町。あまり親しくない風景の中、濡れた目の犬だけが温度を持ったものとして作者の目に映ったのではないかな。

けさの吾亡き妹としばらくはありたりおもひのほかに涼しく /千村久仁子
夢に亡き妹を見たのだろう。目覚めて、嬉しかったり悲しかったりの感情ではなく穏やかで自然な気持ちでいる自分に気がつく。「涼しく」がいい。

誰も見あげぬ桜が咲いてゐたことを思ひだしたり秋呼ぶ雨に /山尾春美
降り出した小さな雨を見上げたのだろうか。そこに桜の枝があったのかどうかは分からないけれど、優しい雨に作者は作者だけが見ていた桜を思い出した。

御供へにケースに並ぶくだものの母によく似た林檎をえらぶ /庄野美千代
たくさんの果物のなかから母に似ているから、と選ぶ林檎。明るい、しっかりしている、素朴、といったイメージがあるかなあ。林檎が母に似ているなんて面白い。作者から見てとてもいい感じの林檎だったのだろう。

心にも深き谷がありその底を歩いてゐたら月に逢つた /古関すま子
底というと、明るい場所ではないけれど、そこを歩いていたら月に逢った。底から出るでもなく、歩いていたら逢ったというところがいいなと思う。月が何を指すのか。作者にとっては必要なもので、美しいものだったと思う。

この夏の猛暑を堪えた蝮なり目撃情報一日に三つ /高原さやか
これはこわい!強い蝮!

各停の終着駅に漂へるそこはかとなき最果て感は /岩上夏樹
各駅でだんだん乗客が降りていってとり残された感じ。各駅停車で行くと時間がかかる。遠い遠いところを思わせます。終着駅で数人散っていく寂しい中にいる作者。

猫缶のお客様相談で話せばいつしか泣けてきて励まされる朝 /奥山ひろ美
飼い猫が病気で歩けなくなったことが連作にある。猫缶に書いてあるお客様相談の番号は商品についての意見をいうところ。作者は飼い猫のことを話し、聞いてもらっている。猫という存在を分かってくれる誰かに聞いてもらいたかったのだろう。

11月号双子歌☆彡

12 /15 2018


11月号はこの夏の大変厳しかった暑さを詠んだ歌が多かったです。

あと、火星の歌。二十五首くらいありました。並べてみると、まるで地球人全員が火星を眺めているようにも思えてきます。火星の、あの朱い色。また、いつもの空とは違うことがなんとなく人をそわそわさせるのかもしれません、そういう雰囲気の歌が多いかなと思いました。


何もかも不安になりてくる日暮れ火星を撮つてとまた息子言ふ /浜崎純江
火星の持つ独特の雰囲気が伝わってきます。「火星を撮つてとまた息子言ふ」が、不思議に響くのはなぜだろう。


以下、歌のみ並べます☆彡
藤色のシャイな神様どこにいる京の夜空に火星と澤辺さん /前田康子

火星いま近づくという南西の空に怒りの舟をこぎだす /江戸雪

いざよいの月はのぼりて明るきを火星の朱き色は薄れず /松村正直

花火果て人ら消えたるのちにして火星の朱き光うごめく /岩野伸子

災ひは洪水炎暑と続くなり火星とブラッドムーンがならび /加藤和子

堪えいる線香花火の玉のよう火星の輪郭ふるえやまずも /藤田千鶴

十五年後を思へば夜ごと見む燃えがら色のおほきな火星 /友田勝美

<生産性>の森に誰かが黙りこむ夕べを低く火星ちかづく /大森静佳

十五年前の家族をおもひつつ大接近の火星見ており /青木朋子

暮れきらず雲の散らばる夏の空火星は三日月の左に光る /井上政枝

ひんがしの簾を除けて眺めをり火星が放つ赤き光りを /向井ゆき子

あとすこしで赤子に会える南東の空に出てきた火星に言えり /中山惠子

夫おこし午前三時の空をみる霞んでさらに大きな火星 /森祐子

火星と月を同一画面に撮り終えてただそれだけで幸せとなる /鳥山かずみ

特養の夏祭り終え帰る時南に歩けば火星輝く /大谷静子

石段を踏み外ししに宙吊りのわたしに火星の信号朱し /河端千紗子

夏の夜を火星が接近われも見た橙色の小さな物体 /辻本芳高

金、木、土、火星がならぶ西の空、葉月朔日夫と眺むる /寺田慧子

火星ともなじみとなりて今晩の大接近をこころして見上ぐ /相本絢子

ひんがしに赤き星見たり海辺にて共に見し人の噂などしつつ /隈元三枝子

暑き日の終はりにひそむ風窓に赤みを帯びて火星は入り来 /黒嵜晃一

天が知る十五年など瞬目の刹那であろう火星近づき /若月カコ

塔11月号 作品2、若葉集☆彡

12 /12 2018

11月号。会費振込用紙とかけて会員住所録ととく。
そのこころは!

おさめるところにおさめましょう。


作品2
マグカップにシンクに映りてゐし吾をあつめてひるの眠りにおつる /千村久仁子
不思議。どういうことかな。くつろいでいたり働いていたり、あちこちに映る作者の姿。それをひとつに集めてぐっすり眠る。どの姿の自分も大事に思っている、ということではないだろうか。

ふりそそぐ凌霄花の裏側へ配達人は手紙を落とす /中井スピカ
「凌霄花の裏側」の世界のやわらかさ。手紙が郵便受けに入っただけのことなのだけれど、一つのシーンとして上手く切り取っていると思う。作者からは見えていない、ということがまた面白くてとても雰囲気のある歌。

佐々木ならこう表せる 小次郎の刀抜くさま示し笑みたり /佐々木美由喜
面白い。詠いかたもすっきりしていてかっこいい。作者の名前が入った歌としてもとても面白いです。作者は手話を習っていて先生から「佐々木」を教えてもらう。きっと「佐々木小次郎」に今までになかった感情を持ったことだろう。

どんなふうに刀を抜くのかちょっと調べてみたら、NHK手話CGによると、背中から刀を引き抜くような形でした。ほお~…と感心。


目覚ましを鯨の深く啼く声に変えて真夏の朝を迎える /中野敦子
鯨の啼く声を目覚ましの音にするってあまり聞かない。想像してみると夏の朝とあっているような気がします。遠い海と繋がって始まる一日がいい。


若葉集
カーテンを開けぬベッドにお大事にと声だけを掛け退院をする /髙鳥ふさ子
退院する嬉しさは、同室の人へ対する申し訳なさのようなものも連れてくる。「カーテンを開けぬベッド」「声だけを掛け」にその心情を思う。

近づけば石には<さるのはか>とあり刻まれてあるひらがなやさし /岡田ゆり
水族園にいたさるのことを詠んだ連作。作者はこのさるを以前から知っているが名前がないので<さる>として見ていた。石に刻まれた<さるのはか>の文字。名前ではないのにもかかわらず、なにかその<さるのはか>という文字を見ながらやさしさを感じる作者。<さる>が<さる>として在ったことが心に今、残っているのだろう。

旅立ってゆくのか君も川辺でのキャッチボールは誰が続ける /平出奔
君と作者がキャッチボールをしているのだろうか。君も、ということは今までもこの川辺で作者とキャッチボールをしていた人がいた。その人もどこかへ旅立つ年齢が来て去っていったのだろう。ずっとあり続ける川辺と作者。いなくなる君。

間違いはどこからでしょう二回目の学年の窓から青い空 /佐原八重
何かの事情で留年してしまった。「間違いはどこからでしょう」という少しひとごとめいた言いかたがおもしろいと思う。間違いはどこからか、というムツカシイ問い。広がる青空に作者のこの疑問の果てなさを思います。

ukaji akiko

塔短歌会。福岡市在住。ふだんは赤煉瓦歌会に参加しています。